介護福祉士の資格を取った。
国家資格という肩書き。
長い現場経験を経て、やっと手にした勲章だった。
試験合格の通知を受け取ったとき、
正直、嬉しかった。
「これでやっと一人前だ」と。
「これからはもっと認めてもらえる」そんな期待もあった。
未来は少しずつでも明るくなる。
そう信じて疑わなかった。
だが、現場はそんなに甘くなかった。
資格を持っていても、特別扱いされることはない。
新人扱いも普通だった。
資格よりも
- 現場でどれだけ動けるか
- 気が利くか
- 協調できるか
そういう”地味な力”が最も重視された。
介護福祉士だろうと、
何年目の職員だろうと、
現場では「今この瞬間にどう動けるか」がすべてだった。
しかも、資格を鼻にかける態度を取った職員たちは、
あっという間に孤立していった。
俺がいた現場にもいた。
資格を取ったことを盾に、他人に指示ばかりする職員。
「資格持ちだから俺の方が偉い」と勘違いしてしまった人間。
結果、
周囲からの信頼を失い、
最終的には自分から辞めていった。
俺自身、最初はショックだった。
こんなにも資格が軽く扱われるものなのかと。
「頑張って取ったのに、これかよ」と、正直思った。
それでも、諦めなかった。
資格があったから、
最初の一歩を踏み出せた。
でも、そのあと進めるかどうかは、
結局自分自身の努力次第だった。
現場で求められた力は、
- 認知症利用者への臨機応変な対応
- 医療チームや看護師との密な連携
- 緊急時にパニックにならず、冷静に動ける判断力
そんな”目に見えない力”だった。
資格は、ただの「スタートライン」だった。
そこから積み上げた努力こそが、
本当の「実力」になった。
俺は、必死に現場で学んだ。
失敗もした。
悔しい思いもたくさんした。
でも、それでも食らいついた。
気付けば、
周囲からの信頼も得られ、
少しずつだが役職も任されるようになった。
今、俺は施設長として働いている。
あのとき、
「資格を取っただけじゃダメなんだ」と気づけたからこそ、
ここまでこれたんだと思う。
介護福祉士という資格は、確かに大きな一歩だった。
でも、その一歩をどう活かすか。
それは、資格ではなく自分自身にかかっている。
資格を取ったらゴールじゃない。
スタートに立っただけだ。
それでも、
「一歩目」を踏み出す資格を持てたことは、
今でも俺の大きな武器になっている。

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